農業は先進国型産業                                       税理士 泉保繁美

 

T.W.シュルツは「農業近代化の理論」の第1章において、『祖先が行なってきたとおりに農業を営む農民は、たとえ肥沃な土地で営んだとしても、またどんなに働いたとしても、たくさんの食糧を生育することはできない。土壌、植物、動物、また機械に関して科学が明らかにしているところを会得している農民は、たとえ土地が痩せ土であったとしても、たくさんの食糧を生産することができる。』と述べています。

このように農業は、土壌学、植物学、動物学、医学、機械工学、会計学、経営学など広汎な科学の上に立って初めて、良品質で安全な食糧を消費者に提供できます。しかも、農業は直接労働するもの一人一人が科学的知識を身に着けていることが必要な点で、通常の工場労働者以上にヒューマン・キャピタル(人的資本)の蓄積が重要性をもつ研究開発型の産業であると考えられます。

従来、農業を、大内力さんは、農業経済学の課題で『固有の農業問題は、農業の資本主義化が充分に行なわれず、小農民が大量に残存するところに発生の根拠をもつということになる』とし、小農民が大量に残存するという事実を、第1に農業生産の季節性、第2に大量の小農民の存在、第3に農民的土地所有により、『農民という存在自体が、基本的に資本主義と矛盾する存在でありながら、資本主義のなかでは解消しえないものになるという事実である。』と言っていました。

しかし、先進国型の農民は、大内力さんが言うところの小農民とは質的に変化した農企業経営者としての農民です。この農業の質的変化を可能にするのは、農企業経営者の知識です。農企業経営者の知恵は生産的でない慣習的農業を生産性の高い経済部門に変質させます。農業はイノベーションの可能性の大きい研究開発型の産業であり、ヒューマン・キャピタルが決定的な役割を果たします。

ところで、農企業経営のみならず、企業経営の原点は「会計の原則」を正しく理解することです。経営に関する貸借対照表及び損益計算書は経営者をして目標にまで正しく到達させるための測定器の役割を果たします。そこで私どもは、「農業の会計に関する指針」に基づき、毎月、月次決算をして12ヶ月決算を行なっています。月次決算においては前期比較、予算比較、そして、キャッシュフロー計算をします。ですから3ヶ月先のキャッシュフローを確認したり、9ヶ月決算において12ヶ月決算を行なえます。あくまで決算書は先ずは自分の経営にいかす為のものです。自己の経営の強みを確認しながら経営を行なう有効な情報です。

 

参考文献

  1.  T.W.シュルツ著 / 逸見謙三訳

『農業近代化の理論』東京大学出版会 1966年

2. 大内力著

『農業経済論』筑摩書房 1971年

3. 叶芳和著

『農業・先進国型産業論』 日本経済新聞社 1987年

4. 稲盛和夫著

『実学 経営と会計』 日経ビジネス文庫 2014年